#001 記憶のアトリエ in 幸ハウス

2018年5月27日(日)10:00~16:00まで、 静岡県富士市の川村病院に隣接する幸ハウスさんで、第1回目の「記憶のアトリエ」をひらきました。

川村病院で治療を受けられている方々や、地域のがん患者さんやご家族、ご友人が過ごすことができる場所として今春オープンした幸ハウスさん。「訪れた方が大切にしたいことを大切にできる場所でありたい」という想いのもと、がんになり孤独や戸惑いの中にいる患者さんや家族、ご友人が気軽に訪れ、安心して話ができ、自分の力を取り戻せる場所として毎週水曜日にオープンされています。

幸ハウスさんでは、ヨガやアロマテラピー、カフェ・デ・モンクなどさまざまな専門性を持った方を招いたプログラムも開催されていて、そのなかの一つとして「自分史」のようにご自身の人生を振り返るプログラムも提供したいと考えていらっしゃったそうです。

静岡でがん看護に携わる看護師さんが、わたしが執筆を担当していた日本看護協会出版会さんのWebメディア「教養と看護」の連載「まなざしを綴じる」でご紹介していたZINEの実践を思い出してお声がけいただき、プログラムの一つとして、来訪された方々が本を読んだりつくったりしながら過ごすことができる「記憶のアトリエ」をひらくことになりました。

アトリエをひらく前、お声がけくださった看護師さんと一緒に幸ハウスを訪れました。迎えてくださったのは、医師の川村さんと長年がん看護の現場にいらっしゃったという看護師の植竹さん。木の扉がひらくとそこにはあたたかな木の温もりにしっかりと守られ、柔らかな陽が射しこむ広く静かな空間がありました。

高い天井と一面に広がるガラス窓。一日の時間の移ろいや季節の変化を感じることができ、その向かいには一面に本棚があって、さまざまな想いの綴じられた本に触れることもできる。建物の設計をされたのが、2年前「掌の記憶-牧浜-」の取材でお世話になった石巻のOCICA のデザインもされたNOSIGNERの太刀川英輔さん。それも不思議なつながりを感じました。

幸ハウスさんのパンフレットには「inspired by Maggies」の文字がありました。がんを経験した人や家族、医療者などがんに影響を受けるすべての人たちが訪れ利用できる場所として英国からはじまったマギーズセンター。実際に英国のマギーズセンターも訪問し、その空間や在り方、提供されているさまざまなプログラムにもインスパイアされてはじめられたとのこと。マギーズセンターはわたしも東京にある「マギーズ東京」さんを患者として訪れたことがあり、患者が安心して相談できる場所がそれぞれの土地に生まれてゆくことにも心強さを感じました。

幸ハウスさんはそのなかでも「大切にしたいものを 大切にできる場所」という想いのもと、来てくださった方々の心の奥にある「大切にしたいもの」を一緒に見つめながら共有してゆくかたちを探っていらっしゃったそうで、「大切な記憶」を綴じるmichi-siruveの活動に関心を寄せ、声をかけてくださったという経緯でした。

ZINEに触れていただきみなさんの想いを伺いながら……わたしもちょうど「記憶のアトリエ」をはじめようと準備をすすめていたタイミングだったこともあり、その第1回目として「記憶のアトリエ in 幸ハウス」をひらくことになりました。ワークショップという一つのかたちもつくりたいというご依頼から「“大切にしているもの”を見つめるワークショップ」も形を整え、5月27日の午後から初開催となりました。

「記憶のアトリエ」は本づくりの移動のアトリエです。やってくるのはわたし一人と豚革のトランクにおさめられた小さな本、本づくりの道具と素材だけ。あとはその場所にあるものをお借りして、その場に来てくださった方々と過ごすひとときを大切にしています。

幸ハウスでは大きな木のテーブルと、本棚の棚板や収納箱をお借りして前日に設営。誰かの“大切な記憶”を綴じたさまざまな本に触れることのできる「記憶の湖 -kioku no mizuumi-」、今年の1月にblackbird booksさんで行った『汀の虹 -migiwa no niji-』の詩と花の展示。そして本づくりの素材と道具をならべて自由に本づくりができる「記憶のアトリエ」の3つのエリアを設け、展示やワークショップから少し離れてゆっくりと過ごすことができる空間もつくりました。

設営中は川村病院の看護師の方々も、お忙しい合間にのぞいてくださいました。展示している本を1冊ずつ手にとりながら、ご自身が普段感じていらっしゃることを語り合う声を聴きながらの設営作業。

遠い町で暮らしている誰かのとても個人的な“大切な記憶”が綴じられた1冊から、読み手の心の奥にある想いが語られてゆく。その瞬間をともにできる有難さを設営中から感じて胸がいっぱいになりました。

そして迎えた「記憶のアトリエ」当日。午前中は展示を中心に、カーテンもひらいてオープン。人が途切れることなくさまざまな方々がご来場くださり、本のある空間で皆さまそれぞれに語り合ったり読み入ったり、ゆっくりお過ごしくださる姿が印象的でした。

川村病院の医師や看護師の方々も娘さんと一緒に来てくださり、娘さんたちはアトリエスペースで自由な発想で創作。「おとうさんいつもありがとう」余り紙として保管していた紙片が、誰かへの想いが添えられた「贈りもの」に変わってゆく様子をまわりの大人もあたたかく見守っていました。

そして午後からはじまった“大切にしているもの”を見つめるワークショップ。がんを経験された方々や看護師さん、薬剤師さんなど、それぞれの想いを胸に7名のみなさんがご参加くださいました。

最初に幸ハウスについて、そしてこの文章でもご紹介をしたように今回アトリエとワークショップをひらくことになった足あとをお伝えしました。そのあとは「今日、呼んでもらいたいお名前」と「今日、本に綴じたいもの」の2つを自己紹介代わりにくるりと一周し、ワークショップの流れと「大切にすること」3つを確認して自由に本づくりをスタート。

「みなさんのペースでゆっくりと。休憩を入れたり他の本に触れたり、自由にお過ごしください。途中で時間がきても材料はお持ち帰りいただけます。また時間を置いて、ご自身のペースでおつくりください」

「質問はいつでも、なんでもお気軽にお声がけください。やりにくい作業があればお手伝もできます。アトリエの道具と素材も自由にお使いください」

「本づくりの前に『どんな人に、どんな時に読んでもらおうかな?』と読み手の人を思い浮かべてみましょう」

お伝えしたのはその3つだけです。あとは本当に自由に、みなさん目の前に並んだ道具や素材を手にとりながら、真っ白な本の余白にご自身の物語を綴られていました。

ご家族のお写真にその方の言葉を添えておさめていた方。当日思い浮かんだ想いを文章にして綴られていた方。水溶性クレヨンの色をじっと見つめて直感で絵を描いていかれた方。さまざまな色柄の便箋からご自身の記憶につながるものを選んで言葉を添えていた方。色紙とはさみ一つで美しい富士山を本に浮かべていた方。本の最初から最後まで一本の糸でつなげていかれた方。大切なものへの想いを1ページずつ綴られていた方……みなさんご自身のまなざしで今までの人生を見つめなおし、思い思いに素材や道具を手にとり、真っ白な本の余白にご自身の“大切にしているもの”綴ってゆく。その時間に立ち会えたこと、そしてその過程で語られていた一つひとつの声は、参加者のみなさん、幸ハウスのスタッフのみなさん、そしてわたしの心にも響きあっていました。

みなさんご自身にとって区切りの良いところまで。綴じ終える前でも感じられたことがたくさんあったようで、1冊の本という「ご自身の手で一筋の流れをつくる」作業が持つ力も再確認できたひとときでした。きっと持ち帰られた本が完成して、読み手となり、誰かに手渡し、時間を重ねていくうちに本と過ごす時間がくれるものもたくさんあると思います。

「完成したら持ってきます!」と嬉しいお言葉もたくさん。ご協力いただける方の手製本は複製して幸ハウスの本棚にアーカイブしていくことにもなり、すでに数冊この棚にやってきました。ここで紡がれたお一人おひとりの“大切にしているもの”がこの本棚に少しずつ重なり、その1冊がまた誰かの“大切にしているもの”を見つめるきっかけになる。そんな風に育まれていくと嬉しいなと思います。

幸ハウスのみなさん、そしてお越しくださったみなさん。他にもたくさんの方々のサポートがあって今回実現した「記憶のアトリエ」。忘れられない第1回目の開催となりました。

また年内を目処に「記憶のアトリエ in 幸ハウス」はひらかれる予定です。その時に完成した本、そして今回お会いした皆さんに再会できること、そして次回来てくださる方々との出会いをたのしみにしています。

今回ZINE作家としてご一緒させていただけたこと、それ以上にがん経験者、そして経験者の家族のひとりとして本当に嬉しく有難いことでした。本当にありがとうございました。これからもよろしくお願いいたします。

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