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2018-08-20

#002「記憶のアトリエ」 in 音川

2018年8月12日(日) 富山県富山市のとあるお家で、第2回目の「記憶のアトリエ」をひらきました。

富山駅から高山線に揺られて数駅。立山連峰が遠くに見える音川というのどかな集落にある、とやまの木にこだわり建てられた温かくて明るいお家。今年の春「記憶のアトリエ」の案内文を公開した時、このお家で暮らすご家族から「ぜひ、家で。」とメッセージをいただき、大阪からトランクを抱えて電車を乗り継ぎ伺いました。

今から3年前。2015年末に「掌の記憶」の取材で初めて訪れた音川。当時は大阪で暮らしていた青空事務所のなおみさんからのご依頼で、彼女の故郷  音川で暮らすおばあさまの「大切な記憶」を綴じる取材旅でした。

その音川に、わたしががんになる直前の2013年に制作し「Photoback Award」を受賞したZINE『母のまなざし』を知っている友人がいると、取材旅の途中に案内され伺ったのがこのお家。迎えてくださったご主人とお互いの家族の記憶を綴じた本を交換しながらたくさんお話をし、薪ストーブでコトコト煮込んだホクホクのポトフをお腹いっぱいご馳走になり。翌日はご家族みなさんとお餅をついて一緒に食べて、とても思い出深い取材旅でした。

連載「まなざしを綴じる」第4回(2017)より

それからもささやかな交流が続いて1年半ほど経ったある日、ご主人から「掌の記憶」のような豆本をとご依頼をいただきました。家族の思い出が詰まった写真を、家族が持ち合うことのできる豆本に。連載「まなざしを綴じる」でもご紹介した、入院が決まった奥さまと帰りを待つ子どもたちが、それぞれ御守りとして持ち合うために制作した豆本です。

奥さまのご病気はわたしと同じ「がん」でした。ZINE作家として、がん経験者として、そしてZINEを通じて出会った友人として何ができるだろう?ブログにアップされるご家族の写真を見つめながら、時々近況を受けとりメッセージを交わしながら、少しでも状況が良くなることを切に願う日々でした。でも、病気を治す力のないわたしにはできることは限られていました。

ご主人が撮影した家族写真や綴られた言葉から感じた、奥さまの「一日でも長く家族のそばに居たい」という強く切実な想い。そして家族への深い愛情とあたたかい笑顔。がんの進行でどれだけ心と体がつらかったのだろう。それでもあたたかさを失わずに一日一日を生きていらっしゃったその姿は、遠くで暮らすわたしの心にも強く届くものがありました。

奥さまを見送られた後、ご主人が公開された奥さまのメッセージには「少しでも長く子どもたちの側にいて、記憶に残りたい!と思っています。」と記されていました。同じようにがんになり「記憶をのこしたい」と感じた一人として、しばらくその言葉と向き合っていました。

大切な家族の記憶を、いつまでもあたたかな記憶としてご家族やご友人が触れなおし、感じ続けられるようなひとときをお贈りすることはできないだろうか?そんな想いから紡いだのが「記憶のアトリエ」の案内文でした。

「記憶のアトリエ」は、“大切な記憶”に触れ、綴じる。小さな移動型アトリエです。

ZINE作家michi-siruveが縁のあった場所へ伺い、今まで制作した誰かの“大切な記憶”が綴じられた小さな本たちと、本づくりの道具や素材を並べて、1日だけのアトリエをひらきます。

本と人がともにある、静かな時間。本を手にとりながらゆっくり過ごしたり、あなたの“大切な記憶”をアトリエにある道具を使って本に綴じたり、自由にお過ごしください。

記憶に触れて、記憶を綴じる、そんなゆるりとしたひとときをお贈りします。(中略)

「病によって断ちきれてしまったものを、つなぎなおすきっかけに」病によって孤独を抱えた患者や家族のひとりとして、また大切な人を見送るかなしみを抱えたひとりとして。治療中の患者さんやご家族も、のこされたご家族も、医療者の方々も。それぞれが抱えているものを“記憶”という言葉のもとでともにする。“記憶”という言葉を通していつまでも触れ、交わしてゆける場があったらいいな。そんな想いが膨らみ「記憶のアトリエ」というかたちになりました。病院やがんを経験された方々が集う場所を中心に、でもがんに限らず、本と人がともにあるさまざまな場所でも。この想いに共感してくださる方々と、少しずつはじめてゆけたらと考えています。
(「記憶のアトリエ」について)

ほどなくこのメッセージを受けとったご主人からアトリエのご依頼いただき、そのやりとりを見たなおみさんもメッセージをくださり、1冊のZINEがつないだ3人がふたたび集う「記憶のアトリエ」の開催が決まりました。

今年の春、静岡の「幸ハウス」で開催した第1回目の「記憶のアトリエ」は、病院に隣接したがん経験者やご家族が過ごすことができる空間。がんを経験された方、ご家族やご友人、病院や地域の医師や看護師、薬剤師の方々もお越しくださり、それぞれ感じていることを語り合う場となりました。

今回はご家族が暮らすお家。家族の記憶が積み重なり、そして今もなお日々暮らしている空間。集まる人もご家族の親戚やご友人、ご近所の方々です。キャプションや看板などのかしこまったものは置いてきて、なるべくいつものお家の雰囲気が保てるよう、素朴な場づくりにしました。

1階奧の静かな和室に本を並べて「記憶の湖」のエリアにして「大切な記憶」にゆっくり触れる空間に。わたしが持参した手製本やがんについての雑誌や書籍は半分ほどにきゅっとまとめ、残り半分はご夫婦がこの10年間で制作されたフォトブックを家じゅうから集めてずらりと並べることに。結婚や出産の記念、そしてがんが判ってから。ご主人からお子さんへ。奧さまからお子さんへ。奧さまからご主人へ。それぞれに家族のまなざしが宿った写真、そこに添えらえれたご夫婦の声。家族の記憶が溢れていました。

豆本を取り出し設営をしていると「掌の記憶」をみた子どもたちが「鞄に入ってるよー」と、それぞれ鞄の中から豆本を取り出して持ってきてくれました。桜色に染めた娘さんの豆本。空色に染めた息子さんの豆本。どちらも表紙はくたくたに馴染んでいて、でもお母さんとの思い出が詰まった写真のページは綺麗なまま。2人の年齢を考えると「大切な御守り」として持ち歩き、大事に触れてくれているのがよくわかる手触りになっていました。「大事にしてくれてありがとうね」と、思わず笑顔になりました。

本づくりの道具を大きな木のテーブルの上に広げると「本つくるー!」と子どもたちが集まり「記憶のアトリエ」のはじまり。「どのかたちの本にするー?」「クレヨンと色鉛筆と絵の具とペンもあるよー」「シールと押し花と封筒もあるよー」アトリエにある道具や素材の説明をすると、子どもたちはどんどん手にとり自由に本づくりをはじめます。

しばらくするとお母さんと一緒にやってきた近所の子どもたちも合流して、あっという間に賑やかなテーブルになりました。それぞれの「やりたい!」に耳を澄ませながら一緒に道具や素材の島をジャンプしながら。道具や素材を思い思いに使い分け、自由に物語を綴っていきました。

1冊綴り終える頃にはすっかり打ち解けて「みっちゃーん!」と呼ばれては、梯子でしか登れない3階のロフトまで連れていってもらったり。ハンモックに乗せてもらってはぐるんぐるん回されたり。「大事なもの」が入った宝箱を見せてもらったり。近所の子どもたちも一緒に大騒ぎでお風呂に入ったり。子どもたちの笑顔と、その様子を見守る大人のみなさんの優しいまなざし。そして明るくあたたかいお家の空気にわたしの方があたためてもらったようなひとときでした。

子どもたちが本づくりや遊びに夢中になっている間にも、奥さまのご友人やご家族が途切れることなくたくさん訪れてくださいました。奥の和室で家族の大切な記憶がつまった本1冊1冊に触れながら、テーブルを囲んで語り合いながら、静かな時間を過ごされていたように思います。

子どもたちの本づくりの様子をみて、訪ねてくださったご友人も「メッセージをのこしたい」と本を綴じてくださいました。デザインの相談にのりながら、訪れたみなさんが一人ずつメッセージを綴り、1ページずつにおさめて1冊の本に。今日ここに集ったみなさんの記憶として、お花とともにお供えしました。

住み慣れたお家で、会いたい人と、時間を気にせずゆっくり過ごす。記憶に触れ合い、語り合う。一つの食卓を囲み、みんなで作って食べて片づけて。虫の音を聴きながら、焚火の炎を見つめながら、夜空を見上げながら、そして変わらぬ笑顔で微笑む奧さまの写真を見つめながら。そんな時間を振り返り、ご主人は「やさしい時間でした」と綴ってくださいました。でもそれは、わたしにとってもやさしい時間でした。

言葉にならない沈黙もともにしながら、言葉にしきれない想いを交わしながら。大切な家族との別れを経験したいつかの自分の気持ちも重ねながら「こんな時間が過ごしたかったのかもしれない」とも思いました。そんな時間を一緒に過ごす機会をいただけたこと、集ってくださったみなさんに「ありがとう」とお伝えしたいです。

大阪に戻ると、手製本を持ち帰ってくださった方々から記憶を綴じたZINEの写真が届きました。過ごした時間もそのあとも、ささやかでも交わしあえる関係が続いている。それは本当に有り難いこと。これからもZINE作家として、がん経験者として、そしてZINEを通じて出会った友人として。今日という日を交わしあうことを積み重ねていけたらと思います。「ありがとう」と「これからも」今はそんな気持ちです。

次回の「記憶のアトリエ」は、春に第1回目を開催した静岡県富士市の川村病院に隣接した「幸ハウス」さんで。11月3日の開催予定です。そろそろ関西でも、どこかでひらくことができたらいいな。もちろん関西以外でも。もしそんな機会ができたらまたお知らせします。ささやかな活動ですが、これからも「記憶のアトリエ」をよろしくお願いいたします。

Schedule

2018年
5.27  #001  「記憶のアトリエ」in 幸ハウス(静岡県富士市)
8.12 #002  「記憶のアトリエ in 音川」(富山県富山市)
11.3  #003  「記憶のアトリエ」in 幸ハウス(静岡県富士市)
12.15  #004  「記憶のアトリエ」in トコテコ紙芝居小屋 (兵庫県宝塚市)

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