2023年10月、母校でもある関西学院大学 人間福祉学部 人間科学科 藤井美和先生のゼミで、お話会とミニアトリエをひらきました。
10月3日(火)は「大切」をともにみつめるというテーマで、学部の卒業生として在学中からその後の人生についてのお話を。2週間後の10月17日(火)は「大切なもの」をみつめるというテーマでミニアトリエをひらき、学生のみなさんがご自身の「大切なもの」をみつめて綴じる本(ZINE)づくりの時間を。
2つの時間を通して、それぞれの「大切なもの」をみつめ、分かち合うひとときをご一緒しました。
2回目の訪問となった10月17日(火)は、「大切なもの」をみつめるというテーマで学生のみなさんが「大切なもの」をみつめて綴じる本(ZINE)づくりの時間。
4年前に開催したミニアトリエでは全員同じ手製本を使った体験にしていましたが、藤井先生と相談して今回はより自由に表現していただけたらと、普段「記憶のアトリエ」で並べている6種類の手製本からお好きな手製本をオーダーいただくかたちに変更しました。
ー【ご案内】#ミニアトリエ「大切なもの」をみつめる よりー
今回も、みなさんと一緒に「大切なもの」をみつめる時間を過ごせたらなと思っています。
ゼミを通してさまざまなものをみつめてこられたみなさんが、今「大切なもの」だと感じるものは何でしょう?それを小さな本におさまる範囲で綴じながら、「これまでの自分」や「今の自分」をみつめあうひとときをお贈りできたら……。
「大切なもの」それは「かたちのある何か」かもしれませんし、心の中にある想い…「ことば」や「音楽」のようなものかもしれません。たくさんあるかもしれませんし、たったひとつかもしれません。今はまだみつからないかもしれません。
「大切なもの」ということばを道しるべに、少し自分の人生を振り返りながら、無理のない範囲で。みなさんのペースで90分でできるところまで綴り、あとは持ち帰り、それぞれの時間のなかで育んでいただけたらなと思います。
普段ひらいているアトリエにお越しくださるみなさんも、本をつくったり、読んだり、おはなししたり、何もせずにゆっくりしたりと思い思いに過ごされています。みなさんの今日のお気持ちで、無理なく過ごしていただけたら嬉しいです。
手製本の一覧や当日の持ち物を綴ったご案内とオーダーのページをお送りすると、十人十色な手製本のオーダーが届きました。
「先週お会いしたどなたのオーダーかな?」「この本にどんなものを綴じるのかな?」と想像しながら、綴じ糸や封筒の有無などの細かなご希望も伺いながら、ゼミ生と卒業生と藤井先生の計10冊の製本。2週間かけて製本しました。
綴じ終えた手製本と本づくりの道具や素材をトランクに詰め込み、2週間ぶりの教室へ。まずは教室をアトリエの空間に設えるための“島づくり”の相談からはじめます。
本づくりの島は一つの机を囲んで作業ができるように教室の真ん中に一つ。窓際にも細長い島を一つ設え、本づくりの道具や素材を並べる島にしました。
島ができるとトランクにみっちり詰め込んだ素材の小箱を取り出して一つずつ蓋をあけ「これはシール」「これはマスキングテープ」「これは押し花」……と説明しながら手渡してテーブルの上に並べます。
次から次へと並べられるその小さな記憶の欠片たちを興味津々に覗き込んでくださり、みなさんで素材の島を囲みながら、ふわりとアトリエの時間がはじまりました。
コロナ禍前のアトリエで緩和ケア医の先生がくださった和紙のシール、コミュニティナースさんがアトリエのお礼にくださった色とりどりの紙やマスキングテープ、親子で拾い集めて郵便で送ってくださった紅葉、画家の友人がプレセントしてくれた水彩画のような和紙、影絵作家の友人が制作してくれた猫のシルエット。活版印刷された活字や手製本の作品……。
そしてコロナ禍を経てアトリエが再開する折に訪問看護師さんからいただいた押し花や、昨年の秋に心理学を専攻する学生さんとひらいたミニアトリエでいただいたシール、今年の春にいのちのケアネットワークのみなさんさんと一緒にひらいたアトリエでいただいた押し花や12星座が煌めく紙……。
「記憶のアトリエ」をはじめてからの4年間で各地からお寄せいただいた記憶の欠片たち。それぞれの素材を並べるたびに、寄付してくださったいろんな方々の顔も浮かびます。
そんな素材たちを丁寧にみつめながらご自身の大切なものを重ねてくださったり、時々声をかけあっていたり。それぞれのペースを大切にしながらも、ゆるやかに関わりあいながら時間を過ごされている様子がとても印象的でした。
本づくりの大きな島では、お家から「大切なもの」を持ってきてくださった方が、机の上にとっておきの記憶の欠片を広げて本づくりをはじめていらっしゃいました。
毎年1通ずつ、お誕生日のプレゼントとしてご家族から贈られてきたという小さな封筒におさめられた手書きのお手紙と1枚の写真。ご家族が長年撮影されてきたフィルム写真や、小箱に仕舞われた小さなポジフィルム。
お手紙には贈り主の声が、お写真には撮影者のまなざしが宿っていて、そのお手紙やお写真をみつめながらお話してくださるお二人のまなざしや声から誰かを想うことのあたたかさを再確認するようなひとときでした。
お手紙は封筒を傷めないように、そしていつでも本から封筒を取り出して読み返すことができるように、フォトコーナーを使ってみてはどうだろう? お写真はページの中にそっと浮かべられるように、台紙やフォトコーナーを組み合わせてみてはどうだろう?
どんな風に綴じればその大切な記憶をより大切にできるだろうかとお話を伺いながら、アトリエの素材から役立ちそうなものを探して一緒に試しながらの制作が進みます。
そのうちに素材の島で過ごされていたみなさんも少しずつ本づくりの島に集まり、思い思いの制作へ。同じ素材の山を覗き込んでも手元に集まるお花や素材は違っていて、それぞれの感性が広がります。
同じ素材を手にとられてもそこに重ねられる記憶はさまざまであることも感じられて、「同じ」から少しずつ浮かび上がってゆく一人ひとりの色や世界を覗かせていただくアトリエの時間は、いつも新鮮な驚きと喜びに満ちています。
藤井先生に表紙に添える一筆を頼まれていた方、本の構造をよく観察して物語を設計されていた方、素材の島で丁寧にじっくり見つめる時間を過ごされていた方。
アトリエの記憶の欠片やまわりのみなさんの表現を呼び水に、ご自身の記憶の1ページをめくったり、心の奥の深いところから大切なものを探り掬い上げたり。言葉にならない繊細な何かがあらわれる瞬間を吹き消さないように、そっとアトリエの島から島へと巡ります。
静かな空気の中に何気ない会話がふっと浮かんでは別の誰かの声が重なり、手塚治虫さんの『火の鳥』のお話になったり、子どもの頃の「迷いのない表現」のお話になったり、誰かの「人生」に一緒に想いを寄せたり。それぞれのペースやリズムを大切にしながらも、時折響きあい、関わりあい、お互いを大切に過ごされる時間はとても心地がよく、あたたかいひとときでした。
アトリエの終盤「よかったらアトリエで使ってください」といただいた、1枚のポジフィルム。光にかざして覗き込むと、その中にはつぶらな瞳の可愛らしい子犬1匹ちょこんとおさまっていました。
「可愛いねー」「この子のこと知ってる?」「耳が柴犬ではないかな?」「足が太いから大きくなりそう!」
大切なご家族のやさしいまなざしが宿る、いつかの記憶の欠片。長年大切に保管されていたであろう小さな一片を託してくださったことがとても愛おしくてうれしくて「大切に次の方にお渡ししますね」とお礼を伝えて、寄付してくださったそのお気持ちと一緒にアトリエの記憶の宝箱に大事にしまいました。
老舗の喫茶店の秘伝のカレールーのように、こうしてアトリエをひらくたびに少しずつ寄せていただく思いやりと大切な記憶は「記憶のアトリエ」の豊かな記憶を育み、アトリエで時間を過ごされた方の表現の呼び水になっています。その有難さも改めて感じたとっておきの贈りものでした。
そうしてアトリエの声もみなさんの制作もあたたまってきたところで、あっという間に授業の終わりの時間。
「やっぱり90分では全然足りませんね」と名残惜しみながら、本の残りはそれぞれの日々の時間の中で綴っていただくことに。持ち帰った後にも制作が続けられるように、必要な素材の「お土産」を集める時間をとりました。
この日参加できなかった方の分の「お土産」もみんな一緒に探して詰め込んで。最後に「それぞれの本が完成した頃にまたみなさんでシェアする時間が持ちましょう」という小さなお約束をして、ミニアトリエの時間を終えました。
こうして無事終えることができた、お話会とアトリエの2つの時間。何か月も前から藤井先生と相談メッセージを重ねて迎えた大切な時間でしたが、終わってしまうと本当にあっという間です。
「学生のみなさんにとってどんな時間になっただろう?」と、お一人おひとりの様子を思い浮かべながらアトリエの荷解きをしていると、藤井先生からのあたたかいメッセージとともに、ゼミ生のみなさんからの感想も届きました。
いただいたメッセージは心の中に留めますが、お一人おひとりがいのちや生きることをみつめてきたご自身のまなざしと言葉を持たれていて、心の少し深いところがそっと揺らされるような言葉をたくさんいただき、それぞれにいろんなことを感じてお話とアトリエの時間を過ごしてくださっていたことが伝わってきました。それはきっと、みなさんがこれまで生きてこられた日々、そしてこの学生生活の中でみつめてこられた時間で感じ、考えてこられたもののあらわれなのかもしれません。
また、藤井先生から最後にいただいたメッセージは、学生のみなさんを想うあたたかな言葉で結ばれていました。その言葉に、わたし自身が在学中も卒業後もどんなわたしでも大切にあたたかく迎えていただいてきた記憶も重なり、胸がいっぱいになりました。こうして先生方に大切にしていただき受けとったものは、後輩たちにお贈りできたら。そんな気持ちも再確認した2023年の秋でした。
とりとめのないレポートになってしまいましたが、このような機会をくださった藤井先生とゼミ生のみなさん、一緒に参加してくださった卒業生のお二人も本当にありがとうございました。ひとときでもみなさんと「大切なもの」をみつめる時間を一緒に過ごせたこと、とてもうれしく、感謝の気持ちでいっぱいです。
お一人おひとりへのお返事は個別にメッセージを綴り、一緒に過ごした時間の記憶はこのレポートに綴り、お礼の気持ちをこめてお贈りします。同じキャンパスで学んだ一人として、みなさんがキャンパスで過ごすこれからの日々も、豊かなものでありますようにと願っています。